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転換期を迎えたドライバー指導

ドライバー教育

大手広告代理店の新入社員が自殺した、過労死事件。

 

1ヶ月100時間を超える時間外労働時間が主な原因で、精神疾患を発症し、自殺したことにより労災認定されました。

 

ただ、長時間労働以外の認定事例も増えてきました。

 

「名古屋市バス運転士の自殺事件」もその1つです。

 

自殺前6ヶ月間の拘束時間は、全労働日150日のうち16時間超はわずか11日。全体の1割未満でした。

休息期間が8時間未満だった日もわずか1日。

 

「拘束時間が非常に長時間になっていた、とは認められない」。

「休息期間が極端に短かった、とは認められない」。

これが裁判所の判断です。

 

では、何が問題になったのか?

 

3つの出来事、です。

 

添乗指導、乗客苦情メール、乗客転倒事故。

この3つの出来事が、労災(今回は地方公務員ですので正しくは公務災害)になるかどうかの大きなポイントになったのです。

 

1つ目の出来事、“添乗指導”。

上司が運転士に対して

「(車内アナウンスについて)葬式の司会者のようなしゃべり方を直すように」

と指導したこと。

 

裁判では、極めて不適切かつ運転士をおとしめる言葉である、とし、運転士の「精神的負荷は相当程度のもの」であったと判断されました。

 

2つ目の出来事、“乗客苦情メール”。

運転士は、次の3つの指導を受け、反省レポートの作成をしました。

 

a.自らは全く身に覚えのない苦情メールの事実確認をさせられ、意に反して事実を認めた上で指導を受けたこと。

b.模範運転士のバスに添乗する方法による滅多に行われない指導を受けたこと。

c.運行管理責任者による特別指導を受けたこと。

 

苦情メールに関する一連の指導により、運転士は“進退伺い”を同僚に見せ、「運転士として不適格なら辞職しようと考えている」旨を話したとのことです。

 

裁判では「精神的負荷は相当に大きかった」と判断されました。

 

3つ目の出来事、乗客転倒事故。

これが最大の悲劇でした。

亡くなった運転士が運転するバスではなかったことが後日判明します。

 

運転士が事故を起こした認識はないことを述べつつも、警察への事故届や取り調べ、実況見分に立ち会いする羽目になったのです。

 

その日の夜中、同僚に電話をかけてきたそうです。

「こんな時間にどうしたのか?」(同僚)

「別に何ともないけどね」(運転士)

 

沈んだ声で、ひどく落ち込んでいる様子で、言いたいことがあるのに言えないような感じだったようです。

 

その翌日だったのです。

ガソリンを入れた牛乳パックをかぶり、焼身自殺したのは。

 

裁判でも、自身が関係しない転倒事故での理不尽な対応が「大きな精神的負荷になった」と判断。

 

3つの出来事(=業務上)以外に運転士の精神障害の発症の契機となった出来事は見当たらない。

 

3つの出来事が、わずか4ヶ月間という短い期間に発生したことで、強い精神的負荷を受け、精神疾患を発症、自死するに至った、と結論づけました。

 

精神疾患による労災件数ワースト3がトラックドライバーです。(2015年度)

 

ドライバー指導も大きな転換期を迎えました。

ドライバーの性格を考慮し、“褒めと叱りのバランス”を考えた指導が求められる時代になった、ということですね。

 

 

 

 

 

 

 

記事を書いた人

和田康宏

和田康宏トラック運送業専門コンサルタント

1971年愛知県生まれ。19歳で行政書士試験に合格。
会計事務所勤務後、22歳で行政書士事務所開業。
トラック運送業専門コンサルタントとして20年以上にわたり活躍。
事故時の緊急監査対策、平時の危機管理対策、荷主に指名されるドライバーを育成する仕組み作りなど、運送会社300社超のコンサルティング実績を持つ。
営業停止案件や運輸監査案件に携わった豊富な経験から、どの段階で何を優先し、どのレベルまで改善すべきかを的確に指導できることに定評がある。
「優先順位なき安全管理は徒労に終わる」が持論。
“顧客100%が運送会社”の正真正銘の運送業専門コンサルタントである。
2014年『運送業をしてきてよかった!』をミッションとして、一般社団法人トラック・マネジメント協会を設立、理事長に就任し、活動中。
2代目、3代目のための経営塾、『トラマネ運送塾』も主宰している。

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