勝負はわずか数分!結果は天と地!〜運送会社の労災リスクを知る〜
ワースト1です。
先日、厚生労働省は
平成27年度の脳、心臓疾患による労災認定件数を発表しました。
残念ながら、全職種の中で“トラックドライバー”が
ワースト1となってしまいました。
2位の“管理職”の約4倍、というダントツの多さです。
注目すべきは「時間外労働時間」です。
1ヶ月60時間以上80時間未満では、わずか11件の労災認定。
ところが
1ヶ月80時間以上100時間未満では、何と105件。
80時間未満か以上かで“約10倍”の開きがあるのです。
これほどまでに差が出る原因。
それは、厚生労働省の労災認定基準の1つに
1ヶ月80時間以上、という要件があるからです。
それにしても、80時間か否か、がこれほどまでに影響力が強いとは・・・。
最近の裁判でも80時間が焦点になった事例があります。
配送センターの駐車場で休憩中のドライバーが
トラック内でぐったりしているのを同僚が発見し、病院に搬送されたが死亡した事故。
ドライバーは高血圧の持病を抱えていました。
ドライバーの妻が労災申請をしたところ、認定されず、
それを不服として国に対して労災認定をするように裁判を起こしました。
この裁判で論点となったこと。
それが1ヶ月の時間外労働が“80時間未満か否か”だったのです。
国側としては80時間未満だったことを立証し、労災不認定の正当性を訴えます。
一方、ドライバーの妻側は80時間以上だったことを立証し、労災を認めるべきだと訴えます。
ここでおさらい。
「1ヶ月の時間外労働時間」はどのように計算するのでしょう?
1ヶ月の時間外労働時間=1ヶ月の拘束時間−1ヶ月の休憩時間−法定労働時間
この式をみてお分かりのように
時間外労働時間のポイントは“休憩時間”が最大のポイント!
同じ320時間の拘束時間であっても、
休憩時間が多ければ時間外労働時間を80時間未満にすることは可能です。
逆に拘束時間が293時間であっても、
休憩時間がすくなければ80時間以上になってしまうこともあるのです。
裁判では、拘束時間の中で
どれが休憩時間で、それが待機時間なのかが
1つ1つ検証されたのです。
国側は休憩時間をできるだけ多く解釈しようとします。
ドライバーの妻側は休憩時間をできるだけ短く、待機時間を多く解釈しようとします。
これほどまでに国は1ヶ月80時間かどうかに拘るのです。
ところが、これまで運送会社は時間外労働時間については無頓着でした。
理由は、拘束時間や休息期間、連続運転時間などの乗務基準違反のように
国交省の行政処分を受けることがないからです。
「80時間12分から81時間31分」で
“恒常的な長時間労働に従事させた”。
これが判決文です。
試験の合否判定さながら、
80時間かどうかで
結果は天と地ほど違いが出るのです。
“80”。
最高速度規制と同じく、運送業経営の重要な安全指標ですね。
記事を書いた人
和田康宏トラック運送業専門コンサルタント
1971年愛知県生まれ。19歳で行政書士試験に合格。
会計事務所勤務後、22歳で行政書士事務所開業。
トラック運送業専門コンサルタントとして20年以上にわたり活躍。
事故時の緊急監査対策、平時の危機管理対策、荷主に指名されるドライバーを育成する仕組み作りなど、運送会社300社超のコンサルティング実績を持つ。
営業停止案件や運輸監査案件に携わった豊富な経験から、どの段階で何を優先し、どのレベルまで改善すべきかを的確に指導できることに定評がある。
「優先順位なき安全管理は徒労に終わる」が持論。
“顧客100%が運送会社”の正真正銘の運送業専門コンサルタントである。
2014年『運送業をしてきてよかった!』をミッションとして、一般社団法人トラック・マネジメント協会を設立、理事長に就任し、活動中。
2代目、3代目のための経営塾、『トラマネ運送塾』も主宰している。