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娘婿の助言で労災になったトラックドライバー

時間外労働時間

のどかな田園風景の広がる地方の運送事業者さんからの電話です。

 

「60代のドライバーが脳梗塞で倒れ、自己都合で6ヶ月前に退職しました」

経営者の方は話し始めました。

 

脳梗塞を発症したドライバーは、運転業務が難しくなったことから

娘婿と一緒に住むことになりました。

 

そこまではよかったのですが、問題はここからでした。

 

退職後間もなく「労災申請をしてほしい」と言い出したのです。

娘婿からのアドバイスです。

 

結果、労災認定されてしまったのです。

発症前の時間外労働時間が過労死ライン80時間超であったことが決定打となりました。

 

今回のケースはこれから増えてくるでしょう。

ドライバー自身は知らなくても周囲の知恵が入ります。

ドライバーが稼ぎたいから長時間働きたいといっても、

最後は時間外労働時間が過労死ラインに該当するかどうかで

労災かどうかが決まってしまいます。

 

ドライバー不足で長時間働いてくれるドライバーは運送会社としては渡りに船です。

しかし、その船は「労災爆弾」を積んだ危険な船でもあります。

うかつに乗船しようものなら、後日、大きなトラブルに巻き込まれてしまいます。

 

リスクはこれだけに留まりません。

運送会社に対する巨額の損害賠償請求が残されています。

 

運送会社に対してドライバーが損害賠償請求をするためには、

ドライバーが脳梗塞になった原因が運送会社になければなりません。

 

時間外労働時間が1ヶ月80時間超という事実。

これさえあれば無敵です。

運送会社の安全配慮義務違反に問われる可能性が極めて高くなります。

 

80時間以内に短縮するのがベストです。

ただ、そうはいっても荷主の協力を得るまで、改善には時間を要します。

 

80時間以内にできないドライバーが一人でもいる場合には、

労災認定後の民事損害賠償リスクの対策は必須になります。

 

「使用者賠償責任保険」への加入。

これが必要最低限の対策です。

保険会社によって保険内容は違いますが、今回はまさにドンピシャのケースです。

 

残念ながら相談された事業者は未加入でした。

 

安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求には時効があります。

これまでは10年。

つい先日民法が改正されましたのでおおよそ3年以内に5年に変更されます。

 

運送経営者としては、時効が成立するまでは気が気ではありません。

 

俺とお前の仲。

運送会社の社長とドライバーの古き良き関係はこれからの時代には通用しません。

 

人は窮地に追い込まれると他人のせいにしてしまう弱い生き物。

病気で就労不能になったドライバー。

過労死で夫(または妻)を失い、収入が激減した遺族。

彼らが向ける矛先。

それが勤務先である運送会社なのです。

 

ドライバーに裏切られた、なんて恨んでも何も解決しません。

 

ドライバーの周辺関係者の過重労働に関するアドバイス。

インターネット社会では法令違反はすぐにバレてしまいます。

 

過労死トラブルを予防するには、法令遵守が重要だということを教えてくれる格好の事例ですね。

 

 

 

 

 

 

記事を書いた人

和田康宏

和田康宏トラック運送業専門コンサルタント

1971年愛知県生まれ。19歳で行政書士試験に合格。
会計事務所勤務後、22歳で行政書士事務所開業。
トラック運送業専門コンサルタントとして20年以上にわたり活躍。
事故時の緊急監査対策、平時の危機管理対策、荷主に指名されるドライバーを育成する仕組み作りなど、運送会社300社超のコンサルティング実績を持つ。
営業停止案件や運輸監査案件に携わった豊富な経験から、どの段階で何を優先し、どのレベルまで改善すべきかを的確に指導できることに定評がある。
「優先順位なき安全管理は徒労に終わる」が持論。
“顧客100%が運送会社”の正真正銘の運送業専門コンサルタントである。
2014年『運送業をしてきてよかった!』をミッションとして、一般社団法人トラック・マネジメント協会を設立、理事長に就任し、活動中。
2代目、3代目のための経営塾、『トラマネ運送塾』も主宰している。

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