メディア連載一覧

名言に学ぶ運送会社の危機管理(第5回)

物流ニッポン

「20代の思いは、40代ではなかなか理想通りにうまくいきませんが、50代、60代にはきっと花開きます。」

世界的な建築家、安藤忠雄の言葉です。

独学で建築を学んできた叩き上げの男の言葉に重み、深みを感じます。

世の中は“インスタ”が大流行り。
インスタグラムではなくて、インスタントのことです。

広告宣伝文句でも
「すぐ届きます」
「簡単にできます」
「ノーリスクで儲かります」
「この方法で求人がうまくいきます」
と、すぐ簡単に上手くいく、という言葉で溢れかえっています。

冷静に考えれば「本当のように聞こえるウソの話」であることが多いです。
誰でも簡単にできるのなら、そもそも同業他社がマネしてきます。
つまり、遅かれ早かれ成果が出なくなるでしょう。

にもかかわらず「すぐ簡単に上手くいく方法」に釣られてしまう経営者が多いのも事実です。

安藤忠雄はそこを見抜いています。
「今の日本人はまさに思考停止状態、考えることをやめてしまっている。
 だから世間や他人のことばかりが気になる。そんな不自由の中に幸福はありません。」

ビジネスの基本は「差別化」。
差別化は、他社が簡単にマネできないことが重要ポイント。
しかし、実際は皮肉にも他社のマネをしようと血眼になっている経営者が多いです。
経営者自ら、ありがたがって、率先してその他大勢に埋もれていく行動をしているというわけです。

話を戻します。
差別化のポイントは、
他社が簡単にマネできないことをすること。

どんなことでも構いません。
車両の5S活動をひたすら追い求めるのもよし。
ドライバーの5S活動もよし。
点呼時のコミュニケーションを工夫するのもよいでしょう。
1つか2つに絞って、極めた世界を創りあげることです。

同業他社が
「そんなの古い」、
「そんなの意味がない」、
「そんな簡単なことをしたって差別化できない」
と親切なアドバイスをしてくれても構わずやり続けることです。

私の顧問先の中には車両の5S活動一筋20数年の運送会社さんがいます。
創業者の社長の哲学が息子さんの専務に見事に受け継がれています。
どこでトラックを見かけてもすべてクリーン。

「なんだ、トラックの清掃くらいで」
そう思うかもしれません。
ところがどっこい、極めた者でなければわからない深さがあります。

最初のうち、ドライバーはトラックの外観だけを綺麗にします。
やがて「いつも綺麗にしているね」と荷主さんに褒められるようになります。
すると「やばい!」とドライバーが感じます。
運転席や荷台が外観ほどに綺麗ではないからです。
次は運転席や荷台まで綺麗にするようになります。

トラックをいつも綺麗にしていると、ちょっとした傷も気になるようになります。
自ずと運転も丁寧になります。
小さな事故も減りはじめます。
無駄に保険を使用しなくなるので保険料割引が大きくなります。
保険料が安くなった分をドライバーの洗車手当や賞与に上乗せすることができるようになります。
ドライバーはますますトラックを綺麗にするようになります。

これが“正のスパイラル”です。
長年、地道に続けていくことの大切さ、凄さを改めて感じさせられます。

たかがトラックの清掃と思うなかれ。
一見誰でもできそうに見えることこそ、誰もがバカにしてやろうとしません。
“差がつく”のはそのためです。

では、続けていくために必要なことは何か?

それが冒頭の安藤忠雄の言葉、
「20代の思いは、40代ではなかなか理想通りにうまくいきませんが、50代、60代にはきっと花開きます」です。

どれくらいのスパンで仕事に取り組むかが重要ということです。
「いいね!」をもらうと安心するがごとく、1日、1ヶ月、1年でインスタントな成果を求めると失敗するでしょう。

安藤忠雄は言います。
「無我夢中の気持ちを失ったとき、走るのをやめて楽をしようと思ったとき、
 私は建築家としての幸福を、人間としての幸福をなくすことになるのです。」と。

建築家でなく、運送会社の経営者も同じ。

無我夢中で会社をよくしようという社長の意欲、常に新しいことに挑戦する気持ちが衰えた時、
それは運送会社、特に中小運送会社が衰退していく時です。

他社が簡単にはマネできない差別化=ブランドです。

自社のブランド化のために何年の月日を想定できるか。

「教えてもらう時間よりも、考える時間の方が大事だと思う(安藤忠雄)」。

教えてもらってばかりいると、人は考えなくなります。
セミナーを受けていることだけで満足してしまう危険性に気づけるかどうかです。

成功事例を聞いてマネをするよりも、自社が何をするべきかを真剣に考える時間を確保すること。
これこそが自社のブランド化の近道です。

40代でも枯れてしまっている人がいます。
70代で花開く人だっています。

賢明なる読者のあなた。
インスタント全盛の時代に、その誘惑に負けず、いったい何を淡々とコツコツ取り組んでいくでしょうか?

「今なお、私は一人でも闘いぬく、ゲリラでありたいと思い続けている」(安藤忠雄)。

現状の経営に満足しない、他社の事例を安易に真似しないゲリラ魂。
中小運送会社のオーナー経営者の必須マインドですね。

記事を書いた人

和田康宏

和田康宏トラック運送業専門コンサルタント

1971年愛知県生まれ。19歳で行政書士試験に合格。
会計事務所勤務後、22歳で行政書士事務所開業。
トラック運送業専門コンサルタントとして20年以上にわたり活躍。
事故時の緊急監査対策、平時の危機管理対策、荷主に指名されるドライバーを育成する仕組み作りなど、運送会社300社超のコンサルティング実績を持つ。
営業停止案件や運輸監査案件に携わった豊富な経験から、どの段階で何を優先し、どのレベルまで改善すべきかを的確に指導できることに定評がある。
「優先順位なき安全管理は徒労に終わる」が持論。
“顧客100%が運送会社”の正真正銘の運送業専門コンサルタントである。
2014年『運送業をしてきてよかった!』をミッションとして、一般社団法人トラック・マネジメント協会を設立、理事長に就任し、活動中。
2代目、3代目のための経営塾、『トラマネ運送塾』も主宰している。

お問い合わせ・ご相談はお気軽にご連絡ください
052-212-8708
お問い合わせ 資料ダウンロード