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事故を起こしても気づかないドライバーが増える時代

「僕、事故したんですかね?」
夜中、社長にかかってきたドライバーの電話です。

ドライバーが異変に気付き、パーキングエリアに駐車し、トラックの状態を見ての電話だったそうです。

ライトは外れかかっていて、両側面の荷台は傷だらけの、見るも無惨な状態だったのです。

幸いだったのは物損だけで人身事故にならなかったことです。

慌てて社長がドライブレコーダーを事務所で確認しました。
事務所で映像確認がすぐにできるハイレベルのドライブレコーダーを装着していたのです。

ライトで照らされた高速道路の2車線。
速度は時速85キロ前後。
すると間もなく車体が左に、右にふらふらし始めました。
直後、左のガードレールに接触する音。

次に中央分離帯に接触する音が響きました。
それでもトラックは何事もないかのように走り続けます。
トンネルが見えてきました。
トラックは左に外れ始めます。
あやうくトンネル入口左側の壁に激突しそうになりましたが、間一髪セーフ。
さらに走り続けるトラック。
その間、ハンドル、アクセル、ブレーキ操作は一切なし!

トンネル内を走行中、追い越し車線を小型トラックが通過していきます。
その直後に右に外れ、トンネルの壁に接触。
この辺りでやっとハンドル操作が再開されました。
この間、約5分間。
拝見した私ですらかなりのインパクトでしたので、
連絡を受け、夜中一人で映像を見た社長の心情はどれほどだったか、想像に難くありません。

実はここ数年間でこのドライバーの運転リスクが高いことに社長は気付いていました。

というのも、この会社ではドライバーの健康リスクを点数化していたからです。
主な基準は、次の8つです。
1.年齢(45歳以上)
2.BMI(25以上)
3.飲酒の習慣
4.喫煙の習慣
5.高血糖(HBA1C6.5以上)
6.高血圧(上140以上)
7.家族の脳・心臓疾患歴
8.高脂血症(中性脂肪150以上)

事故を起こしたドライバーは3、4、5、6、8の5項目に該当していたのです。
40代前半という年齢にもかかわらず、糖尿病で治療をしていました。
薬(インスリン)の影響で低血糖状態に陥ったのが事故の原因ではないかと思われます。

では、なぜデータから見てリスクが明らかに高いにもかかわらず、
深夜労働を含む長距離運行の仕事をさせ続けてしまったのか。

今まで一度も事故を起こしたことがなく、
さらには仕事もよくできるドライバーだったからなのです。

会社側としては糖尿病で治療中であることは把握していましたので、
時々、体調のことは確認していたようです。
当然のことながら「大丈夫です」という返答なので、それで安心してしまっていたのです。

今回の事故で分かったように、低血糖症状になると本人はまったく接触した事実を覚えていないのです。
当の本人も帰社後にドライブレコーダーの映像を見て驚いていたそうです。
自分をいかに過信していたかが身に染みて分かったのではないでしょうか。
何しろ一歩間違えは、この映像すら見ることができない状態になっていたのですから。

運転中の健康起因となる事故防止のための1つの方法。
それは、社内カメラを設置し、健康リスク評価の高いドライバーを時々チェックすることです。
それ以外にも最近のデジタコでは車線逸脱の回数等も把握できます。

ドライバー自身が気づかないだけで運転中、意識が遠ざかっていることがあるかもしれません。
健康管理についてはドライバーの報告を鵜呑みにしないことが重要です。

まずは、ドライバーごとに健康リスク評価をする。
次に、重点的に監視するドライバーを決める。
最後に、どのように監視するのかの方法を決め、実行する。

天災と事故は忘れた頃にやってくる。

コロナ前まで忙しく、深くまで手を出せなかったドライバーの健康管理。
平均年齢50代を迎えるトラック運送業界にとって、最優先の危機管理となりますね。

記事を書いた人

和田康宏

和田康宏トラック運送業専門コンサルタント

1971年愛知県生まれ。19歳で行政書士試験に合格。
会計事務所勤務後、22歳で行政書士事務所開業。
トラック運送業専門コンサルタントとして20年以上にわたり活躍。
事故時の緊急監査対策、平時の危機管理対策、荷主に指名されるドライバーを育成する仕組み作りなど、運送会社300社超のコンサルティング実績を持つ。
営業停止案件や運輸監査案件に携わった豊富な経験から、どの段階で何を優先し、どのレベルまで改善すべきかを的確に指導できることに定評がある。
「優先順位なき安全管理は徒労に終わる」が持論。
“顧客100%が運送会社”の正真正銘の運送業専門コンサルタントである。
2014年『運送業をしてきてよかった!』をミッションとして、一般社団法人トラック・マネジメント協会を設立、理事長に就任し、活動中。
2代目、3代目のための経営塾、『トラマネ運送塾』も主宰している。

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