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居ながらにして法令違反を暴く監査手法とは?

たかが「報告書」。されど「報告書」です。

運送会社が運輸局に報告が義務付けられている報告書の代表格。
それは「事業報告書」と「事業実績報告書」です。
事業報告書は決算終了後100日以内、事業実績報告書は毎年7月10日が提出期限となっています。

ここ最近、運輸局はこの「報告書」の取り扱いを格上げしています。

具体的には、営業所や車庫などの変更認可申請をする際、
これらの報告書が未提出だと申請が認可されないのです。
昨年11月に公示基準が改正されたためです。

これまで巡回指導時に未提出を指摘された時に、
せいぜい直近2、3期分を提出すればOKだったことを考えると、飛び級の出世です。

「法令で規定された報告書に関して法令違反の疑いがあったこと」を端緒として監査が行われたケースが増えてきています。

「法令で規定された報告書」とは、もちろん事業報告書、事業実績報告書のことです。
この2つの報告書でいったい、どのような「法令違反の疑い」を読み取ることができたのでしょうか?

一つ目の「事業報告書」。
事業報告書は、損益明細表、人件費明細表、それに貸借対照表や損益計算書などで構成されています。

要するに運送業経営におけるお金の動きがわかる書類ばかりなのです。
例えば、人件費。
総額÷ドライバー数=ドライバー一人当たりのおおよその年収が分かります。
年収が業界平均よりも大幅に高い場合、どんなことを推測することができるでしょうか?

そうです。働かせすぎ、すなわち長時間労働(過労働)を行なわせているかもしれないと推測できるのです。
では、年収が業界平均よりかなり低い、もしくはありえないくらい低い場合はどうでしょう?
これは、正規の社員ドライバー(アルバイトやパートを含みます)が車両数に比べて足りない、
すなわち、名義貸しを行なっている可能性が浮かび上がります。

このように少しの経営数値がわかるだけで、
ある程度、その運送会社の法令遵守の状態を推測することが可能なのです。

さらに、人件費の総額から分かることがあります。
労働保険、社会保険の加入の有無です。
ご存知のように労働保険、社会保険には保険料率が決まっています。
人件費×保険料率でおおよその労働保険料、社会保険料を把握できます。
事業報告書に添付した損益計算書の「法定福利費」を確認します。
明らかに不足していれば社会保険等の未加入のドライバーがいるかもしれない、と推測できる、というわけです。

2つ目の「事業実績報告書」はもっと分かりやすいです。
走行キロと実在車両数を記載しますので、
1両あたりの1ヶ月のおおよその総走行キロが分かります。
1ヶ月1万キロ超が多ければ、長距離運行が多い運送会社です。
拘束時間等の改善基準違反の可能性が高くなる、というわけです。

居ながらにして運送会社の法令違反を暴くことができる、まさにコロナ時代にマッチした手法。
おそるべし、事業報告書と事業実績報告書!

毎年2つの報告書の提出を怠っている運送会社は
そもそも「法令違反」をしているので監査対象に選ばれやすいでしょう。

だからといって適当に提出しておけばよいかといえば、そう簡単な話ではありません。

それならばと”ウソ”の内容を報告すればバレないのではないかと思われるかもしれません。
ところが、貨物自動車運送事業法では、未報告は当然、
ウソの報告に対して100万円以下の罰金を課すことができる旨の規定があります。
さらに60日車の車両停止処分をすることもできるのです。
すべて運輸局の判断一つで可能です。

今回だけでなく今後も、コロナのような事態が起きることは容易に想像できます。
居ながらにしてある程度の法令違反を見抜く仕組みづくりは運輸局にとっても重要なはずです。
なぜなら、これからの時代は税収の増大が見込めず、監査官の大幅な増員が期待できないからです。

コロナで分かったことの1つ。
それは「とにかく人に会わないと仕事にならない」というのが思い込みだったということです。

リモートによるコミュニケーションがそのことを裏付けています。
コロナがなければ、おそらくこれだけの普及はしなかったはずです。
直接会うことが不要になったわけでありません。
今までの常識を疑って、本当に会う必要があるのかどうか。
この見極めをするキッカケをコロナが与えてくれたのです。

私ごとですが、最近、何件もリモートでコンサルティングを行ないましたが、意外に好評です。
私が移動すれば、ガソリン代や高速代、鉄道や航空運賃が発生します。
おまけにコロナの移動まで手助けしてしまいます。
交通機関各社には申し訳ないのですが、リモートで私も顧問先のお客様も大きなメリットを受けているのです。

事業者に会わずに「法令違反の疑い」をどう把握するのか。
その1つの答えが、事業報告書と事業実績報告書の提出状況と内容のチェックです。
コロナのおかげで運輸局はこの監査手法に一層磨きをかけていくことになるのではないでしょうか。

記事を書いた人

和田康宏

和田康宏トラック運送業専門コンサルタント

1971年愛知県生まれ。19歳で行政書士試験に合格。
会計事務所勤務後、22歳で行政書士事務所開業。
トラック運送業専門コンサルタントとして20年以上にわたり活躍。
事故時の緊急監査対策、平時の危機管理対策、荷主に指名されるドライバーを育成する仕組み作りなど、運送会社300社超のコンサルティング実績を持つ。
営業停止案件や運輸監査案件に携わった豊富な経験から、どの段階で何を優先し、どのレベルまで改善すべきかを的確に指導できることに定評がある。
「優先順位なき安全管理は徒労に終わる」が持論。
“顧客100%が運送会社”の正真正銘の運送業専門コンサルタントである。
2014年『運送業をしてきてよかった!』をミッションとして、一般社団法人トラック・マネジメント協会を設立、理事長に就任し、活動中。
2代目、3代目のための経営塾、『トラマネ運送塾』も主宰している。

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