重大事故を起こしていなくても「営業停止」に!?
「昨年の行政処分基準の改正で、今回は命拾いしましたね」
ある運送会社の役員の方との会話です。
その運送会社は死亡事故を起こし、国土交通省の抜き打ち監査が入りました。
監査官から帰り際に「おそらく、ドライバーの労働法令違反で3日間の営業停止になると思います」と言われ、慌てて私にご相談の電話をかけてこられました。しかし結果は「20日の車両停止処分」。相次ぐ重大事故の発生を受けて、厳しくなったはずの行政処分なのですが・・・。
実は今回の行政処分基準の改正には大きな落とし穴、盲点があるのです。改正の盲点をお話しする前に、運送会社が守るべきドライバーの労働法令(以下「乗務基準」といいます)とは何かを念のため確認してみましょう。
乗務基準とは、細かい規定もありますが、次の6つがメインです。
主な乗務基準とは
- 1ヶ月の拘束時間(原則293時間以下、特例1年間6ヶ月まで320時間まで延長可能)
- 1日の拘束時間(原則13時間、最大16時間まで)
- 1日の休息期間(原則8時間以上)
- 連続運転時間(4時間運転で1回10分以上合計30分以上の休憩時間等)
- 2日平均の1日の運転時間(9時間以下)
- 2週間平均の1週間の運転時間(44時間以下)
新基準では「営業停止」につながる“重大事故”の規定が廃止
上記1〜6をできる限り違反しないようにドライバーの労働時間を管理する必要があります。
実際の国土交通省の監査では、この「違反回数」をカウントされます。「違反回数」によって行政処分が決定されるからです。今回の改正前で乗務基準違反で営業停止になる最多のケース、それは“重大事故を起こした”ドライバーが、乗務基準を“31件以上”違反したことを理由とする「3日間の営業停止」でした。要するに、ドライバーが“重大事故”を起こしたときが最大のピンチだったのです。
ところが新基準では、この規定が“廃止”されてしまいました。その結果、冒頭のように「20日の車両停止」という、極めて軽い処分内容になったのです。しかし、このことが逆に大きな盲点となるのです。なぜでしょうか?それは改正された行政処分基準の内容を確認すると分かります。
行政処分基準の改正により「30日間の営業停止」もありえます。
“今年2014年1月1日”からは“重大事故を起こしていなくても”営業停止になる、という行政処分基準が新設されました。
具体的には「乗務基準違反31件以上のドライバーが3名以上いて、かつ、同じ営業所のドライバーの過半数が拘束時間違反」をしていたら「30日間の営業停止」になる、という内容です。
新しい行政処分基準では、重大事故を起こしたドライバーが乗務基準違反を31件以上であっても、わずか「20日の車両停止」になるに過ぎません。このことが社長の安全管理に対する意識を弱くするかもしれません。「なんだ、規制が厳しくなったと騒いでいたけど、全然痛くも痒くもない」と。今回はたまたま乗務基準違反を31件以上あったドライバーが2名以下だったため「20日の車両停止」で済んだのかもしれないのです。
改正後の乗務基準の最低ラインの対策。それは、営業所ごとで毎月
- 常に乗務基準違反31件以上のドライバーを2名以下にするか。
- 常に過半数のドライバーが拘束時間違反を一切しない状態にするか。
どちらかの対策が不可欠となります。
たった1名の乗務基準違反31件の裏に、2名以上の違反者がいる“かもしれない”。
この「かもしれない」の意識こそが、安全管理に必要な健全な危機意識ですね。
記事を書いた人
和田康宏トラック運送業専門コンサルタント
1971年愛知県生まれ。19歳で行政書士試験に合格。
会計事務所勤務後、22歳で行政書士事務所開業。
トラック運送業専門コンサルタントとして20年以上にわたり活躍。
事故時の緊急監査対策、平時の危機管理対策、荷主に指名されるドライバーを育成する仕組み作りなど、運送会社300社超のコンサルティング実績を持つ。
営業停止案件や運輸監査案件に携わった豊富な経験から、どの段階で何を優先し、どのレベルまで改善すべきかを的確に指導できることに定評がある。
「優先順位なき安全管理は徒労に終わる」が持論。
“顧客100%が運送会社”の正真正銘の運送業専門コンサルタントである。
2014年『運送業をしてきてよかった!』をミッションとして、一般社団法人トラック・マネジメント協会を設立、理事長に就任し、活動中。
2代目、3代目のための経営塾、『トラマネ運送塾』も主宰している。